プロレス統計

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団体別シングル/タッグ試合時間解析

先日Twitterを見ていたらChris Harrington (@mookieghana)という人が面白いデータを投稿していたのでご紹介したいと思います。

新日本プロレスの旗揚げから2019年までの47年間にわたる試合を集計し*1、各年におけるシングルマッチ・タッグマッチの平均試合時間を計算してみた結果だそうです。
ここまで長期間のデータとなると私も集計したことが無いので非常に興味深いんですが、その中でも目を引くのは2点。

まず第1に旗揚げ間近の1970年代のタッグマッチの試合時間がかなり長いこと、何ですがこれに関しては過去の試合ほどデータベースに抜け等もあるとみられ*2、それによって不当に大きく見積もられているんではないかと思います。
第2には、それまで長くに渡ってタッグマッチの平均時間がシングルよりも長かったのが2010年代に入ってその順列が入れ替わった点、近年になるほどデータベースの精度は上がっているようなので*3こちらに関しては実際にそういう傾向があるのではないかと考えています。

これを見てふと思いついたのは、こういった傾向は新日本独特の傾向なのか、それとも日本プロレス全体、もしくは世界的に進む傾向なのか?という疑問です。
ということで今回はこの疑問を検証すべく、団体別のシングル/タッグ試合時間について解析しました。

参考:国内全試合で見る日本のプロレスラーたち - プロレス統計

 

集計したもの

今回用いたのはCagematchのデータベースからスクレイピングで取得した2012年1月から2020年3月末までの国内全興行データと、これに加えて海外団体の代表としてWWEと比較するために同団体の同期間中の全試合データも新たに集計しました。
こちらに関しては開催地に関係なく全興行のデータを集計しているので国内全興行データと重複があることにご注意ください(とはいえ年2,3大会だからあまり大きくはないと思うが)

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以下では上の模式図のように2012~2019年の平均試合時間推移2019年の時間別試合数ヒストグラムを示していきます。
また比較しやすいように、試合時間推移の方は縦軸・横軸共に、ヒストグラムの方は横軸の表示範囲を共通にしています*4

国内団体まとめ

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まず初めに国内全興行のデータです。
2012年以降を見てもシングルマッチが10分前後で推移しているのに対し、タッグマッチの試合時間は12分を下回ることはなくタッグマッチの試合時間>シングルマッチの試合時間という関係が常に成り立っていることが分かります。
しかし、わずかながらですが、シングルマッチは長期化傾向、タッグマッチは短期化傾向が表れています。

2019年の試合時間ヒストグラムを見てみるとどちらも似たような分布(短時間側に短く・長時間側に広く分布している)をしているもののその頂点が7分前後、10分前後と異なっています。
これが所謂日本国内のプロレスの一般的な試合時間分布と言えるでしょう。

国外団体:例=WWE

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続いては国外プロレスの代表例としてWWEの同様データを持ってきたものがこちら。
平均試合時間を見てみるとシングルが6~8分、タッグが8~10分と日本のプロレスと比較して数分近く短い平均値になっていることが分かります。
その理由とも言えるものがヒストグラムに現れており、シングル・タッグのいずれにおいてもWWEでは、日本ではほぼ見られない5分以内の試合の数がかなり多くなっています。
その結果3分前後と10分前後に二つのピークを持つ、日本プロレスには見られない特徴的な分布を示しています。
この短時間領域でのもう一つのピークが全体平均を引き下げる要因と見られ、これを踏まえると「WWEでは日本と比べて試合時間が短い」というよりは「WWEでは日本で主流の10分程度の試合に加え数分の短時間試合も多い」という、試合時間から見る試合のバリエーションの多さと取ることもできます。

またもう一つの違いとしてWWEではほとんどの時間領域でタッグマッチよりもシングルマッチの方が試合数が多くなっているのも特徴と言えるでしょう。
一方で日本プロレスとWWEの共通項として、平均時間の面でタッグマッチ>シングルマッチの関係は崩れないということが言えます。

 

新日本プロレス

ここからは国内のいくつかの団体ごとのデータを見ていきましょう。
まず初めは冒頭で紹介したデータでも示していた新日本プロレス。

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2012年からの平均試合時間推移には冒頭で示したChris氏のデータと同じくシングルとタッグでの平均試合時間の入れ替わりが見て取れます。
それが起きたのは2015年の事でその後2017年以降その差がより大きくなったということが言えそうです。
しかも、タッグマッチの平均試合時間は微減傾向なのに対し、シングルマッチの試合時間は加速度的に長期化しているようにも見えます(2020年はデータが少ないので過剰に大きく見積もっているとは思いますが)。

結論から言うとこのような現象は他の団体には全く見られなかったのですが、その原因がヒストグラム図には見られます。
タッグマッチの分布は10分前後に集中した(国内全体のデータにもみられる)分布であるのに対し、シングルマッチの分布は長時間方向へかなり広く分布する形となっており、10分台後半以降はタッグマッチよりも試合数が多いことが分かります。
今回はデータを比較する関係上、横軸の範囲を30分で区切りましたが、記憶の中には30分超えのシングルマッチが多々あったのも事実。
このような超・非対称な試合時間分布が新日本に特異な長いシングルマッチ時間に現れていると言えるでしょう。

全日本プロレス

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続いては全日本プロレス。
2019年までの平均値としては、国内平均と同じくタッグ>シングルが成立していましたが2020年は現状でいうとその両平均試合時間がほぼ等しくなっているようです。

また、全日本に特徴的なのはその試合時間分布。
シングルに関しては5分前後の試合がもっとも多く、その後ゆるゆると長時間側に伸びる分布になっており、シングルに関してはかなり短期決着が多いと見えます。
一方でタッグマッチに関しては10分前後の最も大きいピークがあるのは共通ですが、それに加えて20分前後にももう一つ小さなピークが表れています。
ある意味でWWEと似た二重ピークな分布ですが、通常のタッグマッチとより長期化(白熱化?)したタッグマッチの二種類が全日本のリング上に共存している証左でしょう。
全日本と言えば四天王プロレス時代はタッグの激しさも有名だったのでその名残が残っているんでしょうか。

プロレスリング・ノア

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続いてはプロレスリング・ノア。
ノアに関してはまだシングルとタッグの平均試合時間の逆転こそ起きていませんが、近年ではシングルマッチの平均試合時間が急上昇しているのが見えます。
とはいえノアの場合はタッグマッチの長さも今回集計した団体内でもトップクラスなのでそれを追い抜くまでに入っていないというのが現状のようです。

その証拠に試合時間分布を見ると、タッグマッチは10分前後をピークに25分辺りまで広く分布した形になっており、ある意味で新日本のシングルマッチの分布に近い分布を成していると言えます。
ノアも源流をたどれば先述の全日本に通じる部分もあるためこういった傾向が共通していると言えるでしょう。

DDTプロレスリング

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最後にDDTプロレスリング。
ここまで紹介した団体が比較的平均試合時間の変化が見えた一方でDDTに関してはこの8年間余り平均試合時間に変化はなく、やや微増傾向にあるといった感じでしょうか。
他3団体と比較すると大きな体制・リング上メンバーの一新などの変化がなかったのも関係があるかもしれません。
分布に関しても平均的ではありますが、他団体と比べて5分以下の試合数が比較的多く分布しているのが特徴でしょうか、その当たりはWWEっぽいとも言える。

 

所感雑感

というわけで試合時間について解析でした。
冒頭で紹介したChris氏のデータを見た時に「これって日本のプロレス全体としてこういう傾向があるんじゃ?」と思ったところから始めた解析でしたが、結果的に言えば新日本ほどでないにしろ、同様のシングルマッチ時間の増加傾向は他団体にも見える、程度でしたね。
それよりも日本とWWEでここまで試合時間分布に差があるとは思ってなかったのでそれは非常に面白かったです。
というか「昔似たような解析してなかったっけ?」と思ってたんですが案外やっていなかったのは盲点でした。
今後もこういう解析をしていきたい今日この頃です。

きょうはこれまで、それでは

*1:Chris氏曰くCagematchのデータベースを使用したとのこと

*2:実際併記されているタッグマッチ数がシングルマッチよりもかなり少ないのが気になる

*3:参考:観客動員・大会数で振り返る00年代・10年代のプロレス:新日本プロレス編 - プロレス統計

*4:ヒストグラムの縦軸は各団体の総試合数にも依るので異なっていた方が見やすい