年末はリング上とは打って変わってファンの口上、タイムライン上で白熱したレスバトルもとい議論が交わされる時期でもあります。
その理由は東京スポーツを皮切りにした各種プロレス大賞企画がスタートする時期でもあるからです。
まぁ近年のパターンでいえば、東スポ制定プロレス大賞への異議から始まり「これが俺のプロレス大賞だ!」という主張に繋がっている感じはします。
その各種大賞については、それぞれ意趣をこらした部門分けなどがされている場合もありますけど、おおよそほとんどの対象で設定されているのが「MVP」の部門。
MVPとはMost Valuable Playerの略で直訳すれば「最も”価値”のある選手」なわけですが、科学の徒としてはここで一つの疑問が浮かぶわけです。
「その”価値”ってどういう”価値”のこと?」と。
”価値”、文脈的に言えば「~~であれば良いものである」という基準・定義とも言い換えられますが、そういった基準というものは状況・場面に応じて変わるもののはずです。
例えば「乗り物」の価値を考えた時に、「通勤時」であればゆったりとした空間や正確な運航が重要になりそうな一方で、
それがどこかへの「移動時」であれば乗り心地はそこそこでどれだけ移動時間が短いのかが重要である・・・
というように同じものであってもその”価値”はその定義によって大きく変わるわけです。
前置きが長くなりましたけど、結論を先に言えばここまで大賞モノで議論が紛糾するのって、それを制定した人・団体とみている側でそのMVPのVの定義がそれぞれ異なっているせいでは?と思ったわけです。
例えば「日本で一番の塔はスカイツリーである」と塔の高さを基準に主張している人に対して「東京タワーの横幅はスカイツリーよりも広いじゃないか!(スカイツリーは68m、東京タワーは80m*1 )」ということを主張するようなもので、どの価値に着目しているかが違えばそりゃ会話も噛み合うわけがないという。
というわけでそれを検証するためにここ数年の東スポプロレス大賞MVPの選考理由を見ながら東スポプロレス大賞MVPの”V”の定義を探っていきます。
- 調べたもの
- 2018年 MVP:棚橋弘至
- 2017年 MVP:内藤哲也
- 2016年 MVP:内藤哲也
- 2015年 MVP:オカダ・カズチカ
- 2014年 MVP:棚橋弘至
- で、”V”ってなんなんだ?
- ”V”に変化の兆しあり
- 所感雑感
調べたもの
通常、東京スポーツ制定プロレス大賞の結果は記事としてWeb上にアップロードされるんですが、それらの記事は一定期間を立つと消去されてしまい、1年前の記事ですら辿ることができないんですよね。
そこで調べたのは東スポプロレス大賞の選考にも参加している小佐野景浩さんの書かれたプロレス大賞総括記事及びツイートを調べてみました。
2018年 MVP:棚橋弘至
MVP=棚橋弘至(18) その他はケニー・オメガ(3)、オカダ(12)。G1での復活はもちろん、映画主演やテレビ出演、さらには国立西洋美術館の展覧会のポスターになるなど、プロレスを世間にアピールする発信力、社会的価値観が評価された。4度目の受賞。
— 小佐野景浩 (@osano2) 2018年12月12日
前年まではAllAboutというサイト上で公開していたんですが2018年は小佐野さんのTwitter上で選考理由を公表。
該当部分は上記の通りですが、この年の棚橋はパパはわるものチャンピオンという一般向け映画で主演を張るなどメディア面で活躍し、そこに関して「プロレスを世間にアピールする発信力、社会的価値観が評価された」という理由になっています。
ここでいう世間はやはりプロレスになじみがない一般層を指すでしょうし、そこへ向けてのアピールによって新規顧客層の開拓に貢献した、という「対外的アピール」が授賞理由ですかね。
2017年 MVP:内藤哲也
2017年はまず初めに「2017年もマット界を牽引した新日本プロレス」という前提から総評*2が始まっており、授賞理由が対外的なものでなくプロレス業界内部に関するものとなっており、そこは2018年の棚橋との一つの違いと思われます。
上記の前提から、新日本プロレス、ひいてはプロレス業界内を盛り上げた選手からMVPを選出すべくオカダやケニーもノミネートされましたが、MVPに選出された内藤さんの理由としては「絶大な人気で新日本を盛り上げた内藤。」とあり、ここでは理由として「対内的支持率」が評価対象になっていたとも見えますね。
2016年 MVP:内藤哲也
その前年2016年もMVPは内藤さん。
この年の総評*3もノミネート選手が新日本からばかりだったことに関して「ここ数年、プロレス界が新日本を中心に回っている」という前提が述べられており、この年も業界内部の活気が重要視されています。
ここでノミネートされたケニー・オメガ、オカダ・カズチカ、内藤哲也の3選手に関してはこの年初めに新日本を離脱した中邑への不安を払しょくしたことがノミネート理由として挙げられていますね。
そして内藤さんの評価に関しては「グッズが飛ぶように売れ、(中略)ファンが急増。専門誌の表紙を最も多く飾ってブームを起こした」と、やはり対外的というよりも「対内的支持率」が理由となっています。
2015年 MVP:オカダ・カズチカ
この年の総評*4として挙げられていたのが「天龍引退イヤー」という言葉。
この年の初めに天龍さんが引退を表明したことをきっかけにその引退ロードが始まったのと同時に「プロレス関係のマスコミからは天龍関連の書物が多く出版されて、まさに業界に金の雨を降らせた」とプロレス業界だけでなくプロレスマスコミ業界に関する文言が書かれています。
これに関してはやはり「東京スポーツ制定」のプロレス大賞であることから、プロレスマスコミへの貢献度というものも重要視されているということの示唆でしょうか。
で、それを考えると天龍さんがMVPにノミネートされているのは道理ではありましたが、MVPとなったのはその引退試合の相手を務めたオカダ。
理由としてはその引退試合を盛り上げるに必須な要素であり、実際に引退試合を勤め上げたことが挙げられています。
勿論プロレス業界への「対内的貢献」でもあるんでしょうけど、総評を見るに特に「プロレスマスコミ業界への対内的貢献」が評価された形ですかね。
2014年 MVP:棚橋弘至
2014年もMVPのエントリーは新日本の選手が中心となっており、その理由として「今のプロレス界は観客動員、世間への発信力…あらゆる面で新日本プロレス一強時代と言っても過言ではない」と挙げられています*5。
そして棚橋の選考理由としては「彼(棚橋)が中心にしっかり立っているからこそ中邑が滾り、オカダが輝いている」「華やかな一方でのそんな地味な努力の継続が今の新日本人気につながっている」とその新日本の盛況への貢献度が評価された形。
2018年の場合は対外的な評価がメインとなりましたが、ここに関しては比較的内部への貢献度が評価された形ですね。
で、”V”ってなんなんだ?
というわけで2018~2014年までを振り返っていく形で紹介しましたが、おおよその傾向をまとめてみると
2018年:対外的アピール
2017年:対内的支持率
2016年:同上
2015年:マスコミ業界への貢献(準対内的貢献)
2014年:対内的貢献
といった感じで、プロレス及びマスコミ業界への貢献もしくは世間一般への対外的アピールが評価されたという2パターンに大別することができますね。
つまりは業界の内に働きかけるか外に働きかけるかという手法の違いはあれど「どれだけ業界に貢献したのか?」を重視しているともいえ、MVPを言い換えれば「Top Contributer to this business(この業界に最も貢献した人)」とも言えそう。
またその貢献に関してはやはり観客動員やグッズ、書籍などの売り上げが大きく影響するという事情も垣間見えます。
で、今年も小佐野さんが総評のツイートをしていたのですが
【MVP】オカダ・カズチカ(15)。その他は宮原健斗(4)、飯伏幸太(3)。ウィル・オスプレイ、ジェイ・ホワイトもノミネートされた。IWGP王者として業界の盟主・新日本をリード、さらに海外での活躍、他のメディアでの活躍などにより通算4回目の受賞。#プロレス大賞
— 小佐野景浩 (@osano2) 2019年12月10日
海外での活躍というのはすなわちマジソンスクエアガーデン大会の成功のことを指しており、メディアでの活躍に関してはつい先日始まった朝の情報バラエティ番組への出演に関することですかね。
MSG大会の成功についてはブシロードの上場の際にもプロレス部門のトピックスとして挙げられており、対外的アピールとしての一面も強いと思われるので、今回のオカダさんの受賞に関しては後者のパターンだったと考えられます。
また、東スポにも記事*6が出ていますけど、そこでの評価として「海外大会での実績やメディア露出をはじめとした世間へのプロレスの発信など、業界への貢献度は選考委員からも「別格」との評価を得た。」とあり、やはり業界への貢献度が重要視されているよう。
”V”に変化の兆しあり
というわけでここまでMVPについて総評を観つつまとめてみたんですが、よく見てみると小佐野さんの総評が始まった2014年以降MVPのノミネート選手はほぼ全員が新日本プロレスの選手になっており、唯一2015年の天龍さんが引退特需で食い込んだのみなんです。
(参考に2013年はオカダ、飯伏、永田、KENTA、関本、曙*7、2012年はオカダ、棚橋、森嶋がノミネート*8 )
しかし上で引用した2019年は、そこに全日本プロレスの宮原健斗が食い込みなおかつ票数では大差こそあれ次点に輝いているんですよ。
これって実は重要というか一大事で、プロレス大賞の総評がプロレスマスコミの見解に一致すると仮定すると、現状がマスコミから見てもかつてほどの新日本1強状態ではなく、対抗馬として他団体のエースが推挙される状況にまでなったということにも他ならないわけです。
プロレス大賞についてmeaninglessだなんていう声もありますけど、これほどマスコミの意図・思想・見え方の変化を測れる指標もないとも思うんですよね。
いずれにしたってひっそりと、少なくともマスコミ内としては妥当一強状態への機運が高まっているとも見て取れるんですよ。
所感雑感
というわけで簡単にですがMVPのVについてまとめでした。
まぁこうしてみると東スポプロレス大賞のM”V”Pは、手法はどうあれ案外一貫してるっちゃアしてるな、と。
とはいえ普段のファンの議論でいうとそのVももっと試合内容だとか戦績だとかに寄っている感じはするので、そこの価値基準の違いが問題の温床なんでは?という気が。
まぁその他の部門に関して議題に上がることも多いんで、そこについても調べてい所だったんですけどそれまた後日ということで。
まぁいずれにしても、これを踏まえて「俺のプロレス大賞」が大喜利のごとく始まっているんですけど、今回の解析を踏まえるにそのMVPを選出するときは是非その選考理由も書いてもらえるとみる側は「そういう基準ならなるほどね/もっといい選手いるじゃん」と下手な紛糾を避けられると思うので是非。
また、今回の解析はこういった時の意見の食い違いは「知見・知識・考えの差」ではなく「価値基準から違う」からではないか、ということを言いたかったわけですけど、
何をどういう価値基準で測るのかは個人の自由で、それこそ「俺のプロレス大賞」と「東スポプロレス大賞」で基準が変わろうが問題はないわけで。
さらにどの大賞にしてもその選出者が自分の力によってその対象に権威を与えている以上、どういう価値基準を選んだのかについてとやかく言う権利はまずないと私は考えます。
「その団体が選出した」こと自体が権威をもたらすのだからこそ、どういう基準でそれを選ぶのかは権威に影響を与えず「判断基準が私と違うから無価値だ」というのはあまりにもナンセンスだ、とも思うわけです。
勿論「俺のプロレス大賞」には「俺のプロレス大賞」独自の「”俺”が選出したことによる権威」が付加されているわけで、ファン投票によるものなら人数分の権威が付加されていると考えるのが妥当でしょう。
勿論「どういう価値基準を用いて選出すべきか」という議論は大賞を運営する上で重要なのでそれをする分には構いませんが。
そういう意味で、今回はMVPだけに絞って総評を振り返って個人的には価値基準として妥当では?と思ったんですけど、その他部門に関しては「お前もうちょい何かあるやろ」と思う年もあったのでそこについてはガンガン「価値基準」と「価値判断」について議論すべきだとは思います。
最後に、今回調べてみて思ったのは、単純な結果はいろんなところで引用されているんですが、ノミネートと選考過程について詳細を小佐野さんが記事として残しておいてくれたおかげでこうして解析ができたので、小佐野さんに感謝ですね。
きょうはこれまで、それでは