プロレス統計

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収益分布とみるWWEと新日本プロレスのCOVID-19対策とその違い

先日、新型コロナウイルスCOVID-19による日本プロレス界への被害を概算したわけですが、こと今回の出来事を考えるときにその被害のみを書くのでは片手落ちの感があります。
こと日本に限ってもプロレス界はCOVID-19によってただ一方的に被害を被ったわけでなく、その環境下で生き抜くべく行動を行っているわけです。

その一つの手法が通常興行再開なわけですが、今回はWWEという世界でも最大手がとったそれ以外の対策について簡単にまとめつつ、それを新日本プロレスの対策とも比較してみようと思います。

参考:新型コロナウイルスCOVID-19による日本プロレス界への影響概算 - プロレス統計

 

前提:アメリカの現状について

日本とアメリカでは多少コロナの感染が拡大し始めた時期、そしてそのスピードなどが異なるため単純比較はできないんですが、
これまでの経緯としては日本では3月初めの3週間のイベント自粛要請は一応終了したものの、今後も予断が許されないとして各自治体はその自粛体制を維持、それに伴った新日本プロレスも東京都が主催イベントを自粛する4月11日までの興行を中止しています。

対するアメリカでは3月16日にアメリカ疫病対策センター(CDC)から「50人以上の人が集まるコンサートやイベントなどを今後8週間にわたり見合わせる」勧告がなされています。
それに伴ってWWEは4月5日に予定されていた年間最大のイベントWrestleManiaを中止するなど対応に追われています。

新日本/WWE収益割合データ

プロレス団体・企業のような興行会社はイベントの収入で主な収益を得ているためにこのようなイベント中止はかなり大きいはず、なんですがことWWEに関しては新日本をはじめとする日本のプロレス団体とは多少状況が違うことが、2018年に出された日本経済新聞によるメイ社長へのインタビュー*1からわかります。

(日本経済新聞電子版より引用)

上図がインタビュー中で紹介された2017年の両団体の収益割合を示したものですが、
新日本プロレスではチケット収益がおおよそ半分となっておりやはり興行の開催中止による影響は大きいことが分かります。
一方のWWEを見るとチケット収益は約2割程度、その代わりに大きく割合を占めているのは放映権料動画配信による収益を含むデジタル関連の項目、6割といったところでしょうか*2

まぁこのように収益の構造が全く違うわけで何か問題・過大が起きた場合の対策も各々の収益構造に即した対策を打たねばならないでしょう。
これを踏まえて以降ではWWEのCOVID-19に対する対策を見てみます。

WWEの取った対策

1.Raw/SmackDownの無観客開催

まず初めにWWEは毎週の中継番組であるRawとSmackDownをパフォーマンスセンターから無観客での配信を開催。
上述した通りWWEの収益の過半数を占めるデジタル部門というのにはこの毎週の中継番組の放映権料が入っている。
その為に番組をどんな形であれ放送することはその放映権料収入の維持のために重要かつ不可欠なものと考えられる。

2.WWENetwork期間限定無料配信

先日から始まったのがWWE Networkの一部コンテンツ(と言ってもすげぇ量だけど)の無料配信(アカウントは要る模様)。
Twitterでの反応を見てみるとこれを機にWWENetworkを始める人も、始めるよう勧める人も多々見られるんですが、無観客で開催とはいえ本来の形式とは違ったスケールダウンしての開催がここしばらく続くわけで、「この期間に見るものないからNetwork解約するか」という人も出かねない所をこの施策で補っている可能性はあります(本当にそういう思惑かどうかはさておき)。
いまやWWENetworkによる収益も放映権料に次ぐ収益になっているのでその会員数の維持は必須の取り組みと言えるでしょう。

これらをみるにWWEは収益構造の中で最も大きな配分を占める放映権料とサブスクリプションの収益を維持するべく上記二つの施策を施しているのがうかがえます。
逆に言えば収益構造をみるにライブイベントの動員による収入は全体から見ると小さくないとはいえそこまで大きくなく(放映権・サブスクに次ぐ3番目)、たとえ無観客でも上記二つの取り組みを行うことでダメージを最低限に抑えることができているかもしれません。
もちろんライブイベントがメインコンテンツであり、それがなければサブスクや放映権が発生するアーカイブの作成はできないんですが。

WWEの施策は新日本プロレスにも有効なのか?

結論から言えば「部分的には有効である」というのが私見です。
事実NJPW Togetherプロジェクトは新規のインタビューや過去のアーカイブの開放、そしてWrestle Kingdom14の無料配信など、いずれも新日本プロレスワールドの会員維持にむけた施策で、WWEの行った二つ目の施策と同様の事を行っています。

しかし無観客試合の開催は、WWEの場合はサブスクリプションとはまた別の放映権料の関係で開催を決定しているのではないか、というのが私の予想ですが
新日本プロレスの場合テレビ朝日で放送しているワールドプロレスリングは中継ではなく録画番組であり、必ずしも新規の試合映像が必要ではなく、実際に最新の回ではヤングライオンの特集が組まれていましたし、そういった過去アーカイブでの対応の方がこと放映権料に関してはむしろコスパがよさそう、という。

とはいえ、果たして現状のTogetherプロジェクトによってどれだけの会員が維持できているのかは要検討ではあります。
やはり新日本プロレスのメインコンテンツは細心の試合映像であり、ワールドも試合中継がもっとも会員を引き付ける要因でしょう。
そういう意味ではワールド会員の引き留めという意味での新コンテンツとして、新たな試合映像を無観客で収録するというのは無きにしも非ずかなぁとは思います。

また収益構造に話を戻すと新日本プロレスの場合、最も大きいのはイベントによる収益であるのは言わずもがなですが、次いで大きいのはグッズによる収益で、約3割程度の割合を占めています。
だからこそ最近でも続々と(NEW JAPAN CUPで発売されていたであろう)新商品が発売され、公式Twitterで宣伝されているんでしょうし。
もし新日本に何らかの形で貢献したいという人がいるのであれば、こういったグッズをオンラインで勝ったりすると良いんではなかろうか。

 

所感雑感

というわけで情報まとめというか最近の所感のまとめになりました。
まぁ言いたいのは「○○がやってるんだから□□もやったらいいのに」っていうのは、それぞれの環境とか状況が違うから有効な場合とそうでない場合があるんだよってことです。

ここからは余談(でもクソ長い)ですが、最近のプロレス界は後楽園ホール規模の大会を再開(とはいえ自粛要請期間も興行を開催している団体はあってけど)し始めるなど「解禁」ムードが漂いつつあったんですが、ここ最近でそのムード、特に外部からの風潮は変わりつつあるように感じます。
例えば先日開催されたスターダム後楽園大会に関してこれを「強行開催」と表現するメディアが出たりもしています*3
ちなみにこのYahoo!ニュースの元記事とみられるデイリースポーツの記事タイトルには”強行”の文字は無く*4
デイリースポーツ自体は普段からプロレスを報じているメディアもあってプロレス業界よりに開催を支持する立場を出しているのに対し、より一般の読者層にアレンジしたYahoo!ニュースでは開催を非難するようなニュアンスを増やしている感じもあります。

これに関してはやはり東京都主催イベントの自粛発表*5を受けてもあるでしょうし、
先日のK-1イベントがまさに「自粛要請」下での「強行」で開催されたとされ、これに関する批判が大きくなっているのを受けているとは思います。
最近だと北大教授の寄稿*6が話題にもなっているのでその影響もあるとは思いますが。

先日の記事投稿時は新日本の両国開催支持を念頭に置きつつ書いていたので中止発表にはがっくりしていたんですが、こういう状況、公式リリースの文面がどうであれそれが二次メディアで異なるフレーバーが添加されるような状況を見るに、思った以上に開催リスクは高まっていて、それを避けたのは無難だったのかなぁとも。
まぁ思ったよりも状況は、世間の目は厳しくなりつつあるという感じですが、その中で何をすべきか何ができるかはファン側も考えていかないとなぁと思うところです。

ということを25日の昼間に書いていたら、都知事がK-1を名指しで28日の後楽園ホール大会の無観客での開催を要請*7、それに伴ってそれまで開催で来ていたはずのプロレス興行でもノアが29日の後楽園ホール大会を無観客での開催に変更*8
思ったよりもプロレス、に限らずスポーツエンターテインメント業界の春到来は遅くなりそうです。

きょうはこれまで、それでは