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「俺は怒ってるよ」で振り返る棚橋弘至対DDT

さて色々有りすぎるほどに色々あった10.9両国大会でしたが、皆さん的にはどのシーンが印象に残ってますかね。
先日のツイート解析的には「ジェリコ」「鷹木」そして「オカダ」って感じではありましたけど解析ではピックアップしなかったものの話題を呼んでいる、というか”議題”と化している出来事がメイン後にありました。

セミでIWGPヘビー級権利書を防衛した棚橋が、同じくIWGPヘビー級を防衛したケニーの前に現れ、挑戦表明。
この挑戦表明、そして東京ドームのカード第1弾決定という流れはここ数年の既定路線ではあるんですが、その際の棚橋のコメントが中々に過激。
上のツイートでも取り上げられてるように、今まさにレスラーとして心身ともに、そして知名度的にも絶頂期にあるであろうケニーに対しての「賞味期限切れ」という発言が特に議論を呼んでいる気はしますね。
ですが、今回のまとめはこの「賞味期限切れ」ではなくこのマイクの口火を切った言葉の方に着目します。

「ケニー、俺は怒ってるよ」

一見してただ冷静に話を切り出したような感じもありますけど、実は棚橋にとって、というよりは棚橋とケニーや飯伏の古巣でもあるDDTにとってこのフレーズって非常に重要なんですよね。
というわけで棚橋の「俺は怒ってる」発言とその顛末+αについて振り返りです。

 

2015.8.23

www.njpw.co.jp

事の始まりは2015年、新日本のG1 CLIMAXを制した棚橋が恒例となっていたDDTの両国国技館大会に参戦。
2012年ごろの新日本とDDTは懇ろとまではいかないものの、主に飯伏やケニーの新日本への参戦などもあって付かず離れずといった距離感を取っていました。
その関係は飯伏の2団体所属(2013年10月~2016年2月)なんていう形にも表れているんですが、それ以外にもDDTの年間最大のビッグマッチであった夏の両国国技館大会に新日本のトップの参戦も続いていました。
2013年はオカダが参戦し飯伏と対戦、2014年は棚橋が参戦し未来のエース候補であった竹下幸之助と対戦、そして2015年は再びの棚橋、そして今度はDDTの現行のエースと言われるHARASHIMAと対戦することに。
どちらも自団体ではどちらかというとベテランになりつつあるもいまだに絶対的ベビーフェイス、という共通点もあって注目を集めて一戦でした。

しかし事件は試合後に起こる。
以下に試合後の棚橋のコメントを引用すると

棚橋「(前略)俺は珍しく怒ってるよ。グラウンドで競おうとか、打撃で競おうとか、技で競おうとか。ナメたらダメでしょ。これは悪い傾向にあるけど、全団体を横一列で見てもらったら困るんだよ!(※机をドンと叩く) ロープへの振りかた、受け身、クラッチの細かいところにいたるまで、違うんだから。(後略)」
(新日本プロレス公式サイトより引用)

言ってみれば賑やかしの対戦であったはずの一戦、ファンとしては試合後に「良い試合だったね」なんて語り合えばよかった一戦で、新日本での普段のコメントでも見せないような辛辣なコメントを残した棚橋。

当然ながらこれに対しては選手も団体もファンも騒然としました。
棚橋の発言を否定する人、賛同する人、発言の理由を考察・邪推する人、色々いたと思います。
翌8.27に新日本プロレスのモバイルサイトに連載していた日記でその発言について棚橋の釈明が書かれるものの、日記自体の閲覧が有料であり万人に見られるものではなかったこと、そして謝罪の言葉も見当たらなかったこともあってより一層ファンの怒りに火を注ぐ部分もあったかと。

誰もが、というよりはDDTファン・HARASHIMAファンはその無念を晴らす場を望んでいた、そしてその執念で遂にはその因縁をリング上にまで引っ張り上げることに成功しました。

2015.11.17

sports.yahoo.co.jp

DDTでは会場にやってきたファンなどによる人気投票が存在する、所謂AKBグループの総選挙をモチーフにしたもの(だと思う)だが、複数ある部門の中でユニット部門に優勝した場合にはDDTグループで抑えている後楽園大会を自由にプロデュースする権利が与えられる。
この年、この総選挙のユニット部門を制した#大家帝国はこの大会で、ユニットメンバーではないHARASHIMAの棚橋へのリベンジマッチを実現することを宣言し、それは実現した。

11月17日の後楽園ホールのメインイベント、HARASHIMA&大家健に続いて入場してきたのは棚橋と若手だった小松洋平(試合映像)。
ある意味でDDTファンの執念のるつぼだったともいえるこの試合はまさしくヒートアップした。
そして試合はHARASHIMAが小松を仕留めることで幕を閉じ、試合後に棚橋がDDTで一躍人気を博していたスーパーササダンゴマシンの”煽りパワーポイント”を真似、そしてハッキリと観客の前で謝罪の言葉を口にしたことでファンはようやく留飲を下げることができました。
ただの謝罪でなく、棚橋にとっては針の筵ともいえる敵しかいない相手方の本拠地の中心で、相手方の作法に乗っ取った上での明確な謝罪。
見方によれば棚橋のDDTへの完全な降参とも、団体間の緊張関係を解決するための大人の対応とも、またはまさしく「プロレス」的とも言える解決方法だったわけですが、これにて棚橋とHARASHIMA・DDTの禍根は一段落しました。

しかしこの一件を終えた翌年、2団体所属をしていた飯伏は両団体を退団、そしてそれ以降新日本とDDTの団体間の交流はめっきり途絶えている。
他にも色々な都合・理由はあったんでしょうけど、棚橋の発言に端を発した数か月にわたる緊張関係の余波もその中にはあったんではないかと邪推するばかりです。

2018.8.12

number.bunshun.jp

新日本とDDTの関係はハッキリと途絶えたかと思われていた。
それが俄かにその因縁が脳裏によみがえったのは3年後の夏。
その夏、G1 CLIMAX28の主役は飯伏幸太だったと今では思います。
それは一戦一戦の充実度からも、最終公式戦に据えられた対ケニー戦への人々の期待値も、飯伏幸太を「新日本の主役」に押し上げるのに十分でした。
実際にそういった感情・感覚は飯伏にもあっただろうし、見ている側もG1の優勝決定戦で飯伏が盟友ケニーと共に入場してくるまでは全く疑わなかった。
しかしそれが一気に変化したのは棚橋の入場シーン、長期欠場を続けている同期・柴田勝頼を伴って入場してきた。

このシーンについては上記の記事で飯伏自身も語っており、その部分を引用すると

飯伏「棚橋さんのセコンドに柴田さんが付いているのを見た瞬間、正直に言って『やられた!』と思いましたね。『ああ、これは“終わった”かもしれない』とまで思いました。

 それまでファンも僕を後押ししてくれていたと思うんですけど、棚橋さんと柴田さんという新日本生え抜きの2人が並び立ったとき、僕とケニーは一瞬にして“外敵”になってしまったような空気を感じたんですよ。新日本プロレスvs.外様という図式を、棚橋さんによって作られてしまったんです」

新日本プロレスvs外様、つまりは3年前に日本プロレス界に緊張が走った、あの新日本プロレス対DDTの構図が今度は新日本のリング上で蘇った。
奇しくも前日にはDDT時代からのライバルである飯伏とケニーが数年ぶりに再戦を果たし、誰もが二人のDDT時代を思い起こし、二人のDDTを起点とするストーリーに思いをはせた。
だからこそ棚橋が新日本を掲げることでその「インディからのサクセスストーリー」が容易に「外敵を迎え撃つ新日本生え抜き」に転じた。
つまり物語の主役は「飯伏幸太」から「新日本の棚橋弘至」に移った。
結果として「DDTの飯伏幸太」は敗れた。

そして2018.10.8

www.njpw.co.jp

そして先日の両国国技館大会、メインイベント後にケニーの前に現れた棚橋はマイクの一番初めに「俺は怒ってるよ」とわざわざ使ったのだ。
棚橋にとって大きな意味は実はなかったのかもしれないけども、2015年の一連の騒動を覚えている者にとってはその一言で棚橋が何を目論んでいるのか、どういった対立構造を作ろうとしているのかは如実に感じられた。
正直言えば、今の棚橋がケニーに勝てるわけがない、というよりはただ技を競い合うG1のような試合をした場合、十全な説得力を持って棚橋がケニーに勝てるとはとても思えない。
それは棚橋とケニーの両者のコンディションが大きなウェイトを占める試合スタイルだからなわけですが、であればどうすれば棚橋は勝ちうるのか、おそらく棚橋は考えたでしょう。

そうして棚橋がとったのは、選手の印象を塗り替えて、試合の構図を変えてしまう、という手法。
コンディションを軸にして考えると「まともなロープワークもできない棚橋」対「アスリートプロレスの第一人者のケニー」という形で、試合前の印象の時点で勝ち目がない。
そこにかつて論争を起こした棚橋対DDTの構図を持ち出せば「メジャー団体の象徴である棚橋」対「カナダインディ・DDT出身のケニー」という形になる。
少なくとも日本のプロレスファンにおいてはやはり「自分のプロレス団体こそが一番」という思想を知らず知らずのうちに持っている人が多く、その心理と上の構図を利用すれば試合前から印象の時点で優勢を取ることができる。

つまり、棚橋はあの発言をもって「自分の勝てる舞台設定を作り上げた」わけです。
逆に言えば試合前の舞台設定の時点でケニーは不利になり、一夜明けの会見でもその舞台設定に乗っからざるを得ない状況になった。
こうして考えると棚橋弘至が如何に狡猾か、そして如何に厄介なのかわかるんではないかと思います。
そこにはこれまで様々な相手との対決・舞台設定を作り上げてきた経験値のなせる技なわけですが、はたしてドームの決戦まであと3か月弱はたしてどうなるものか。

 

所感雑感

というわけで棚橋のマイクについて思い付きまとめでした。
まぁ上記の「怒ってるよ」については晩年「怒り」というキーワードをよく使っていたアントニオ猪木氏の影響、オマージュなんではという話もありましたね、飯伏もインタビューで「棚橋に”猪木”を感じた」なんて発言してますし。
まぁ猪木さんも猪木さんで中々に厄介だったわけですけど、棚橋もそのレベルになってきたのかなぁと思う日々です。

きょうはこれまで、それでは。


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